学校指定の、ナイロン製の紺色のバッグだった。 「阪井……」 もう外は暗くなっていた。 ぼくの家の、玄関先からの光に照らされながら、阪井がこっちを見ていた。 そのせいか、立ち姿に、どことなく不穏な空気を感した。 表情は厳しく、まるでなにかを決意してるみたいだった。 足の先から頭のてっぺんまで、力が入っていたようにも見えた。 「ねえ」 と少し大きな声でぼくを呼ぶと、阪井は指で数回、ぼくの頭の上を越えるようなしぐさで指さしをした。 要するに、ぼくの部屋の中に入れてくれということだ。 「玄関から入ったらいいじゃん」 そう言った。 阪井はそれには応じず、人差し指を唇にあて、首を左右に振った。 振るときの、長い髪がなびく感じが、どことなく軽やかだった。 困った。 なるべくぼくの家族には、来たことを知られたくないらしい。 ぼくの部屋は二階だ。 家の中から階段を登って入る以外に、その術はない。 ぼくはおもわず手で、制するしぐさを阪井に見せた。 それから急いでジッパーを上げながら部屋を出ると、階段を駆け下りて玄関のドアを開け、外へ出た。 阪井の方を、ぼくはすぐに向いた。 家から出た勢いのせいか、少しびっくりしたような表情に見えた。 ぼくは阪井に向かって少しうなずくと、さっきの公園の方向を指さした。 公園の街灯らしき光が、弱いながらも、その存在を知らせていた。 「……いったい、どうしたの?」 公園に着き、とりあえずベンチに座る。 そして阪井に、訊ねてみた。 とにかく、よくわからない。 パターンからすると、たぶん家庭内でなにかあったとか、そういうのなんだろう。 でも、それはあくまでぼくの妄想に過ぎない。 とにかく阪井から事情を聞かなければ、何の対処も、しようがないのだ。 阪井は、なかなか口を開かない。 ぼくも仕方なく、待つことにした。 |
2012年2月9日木曜日
文芸少女のイソギンチャク その2
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